元地域おこし支援員 浜田です。
これまで名峰「霊山(りょうぜん)」の魅力を2回にわたりお届けしましたが、最後は霊山のもうひとつの魅力である、「霊山の歴史」について少し書いてみたいと思います。
1.「北の比叡山」霊山
前々回記載しましたが、かつて霊山は平安時代の859年天台宗の高僧の円仁(慈覚大師)がここに霊山寺を開山して以来、往時は山上には100を超える堂塔伽藍が建ち「北の比叡山」として隆盛を誇っていた事は紛れもない事実です。ではなぜ、この阿武隈山地の最北端である霊山が南東北の仏教の拠点として選ばれたのでしょうか?以下4つの理由があると言われています。
- 奇岩怪岩の荒々しい山の地形は、山岳仏教として厳しい修行を行う密教寺院の設置に相応しかった。
- 陸奥国の鎮守であった多賀城にも近く福島平野や相馬地方の主要部落を見渡せる場所にあり、多くの人々の崇敬を集めるにも有利な場所だった。
- 山頂付近の尾根部の地形が平坦であり多くの建物建立に適していた。
- 硬質な岩盤(霊山層)のおかげで、山上の生活に欠かせない湧き水が存在していた。
この山容は天台宗の総本山である比叡山ともよく似ている事は興味深いものがあります。
本年、霊山の山頂広場に私が所属する霊山道先案内人会が監修した霊山の復元画の看板を建設しました(原案:梅宮茂氏、画:中西立太氏、加筆:霊山道先案内人会)。
全盛期の平安末期(12世紀)の頃と思いますが、かつてのこの山の繁栄ぶりは伊達市民にとっても誇らしいものがあります。
山頂広場(霊山城跡)に設置した中世霊山の復元画
2.「南北朝の歴史の舞台」霊山
南東北の仏教の拠点としては繁栄を誇った霊山でしたが、南北朝時代という日本の大きな
歴史の転換点に巻き込まれる事になります。1333年鎌倉幕府が滅亡後これまでの武家中心の
政治から、
- かつての天皇中心の親政政治を取り戻そうとする南朝(後醍醐天皇による建武の新政)
- 天皇を擁立するも、引き続き武家政権を継続する新しい幕府を興そうとする北朝
(足利尊氏による室町幕府の樹立)
この両勢力が国を二分し、全国各地で激しい争いが繰り広げられました。
ここで、この地に北畠顕家という新たなヒーローが生まれます。
顕家は、後醍醐天皇に仕えた南朝の公家武将として活躍。若くして陸奥国司に抜擢され広大な奥州地方の統治を短時間で整備しました。知力・武功・統率力を兼ね備えただけでなく、花将軍とも呼ばれ詩・舞踊にも秀でたイケメン青年国司であったと言われています(その証拠に1991年に放映された大河ドラマ「太平記」では女優(後藤久美子)が顕家役を演じていました)。
顕家は、後醍醐天皇の命で二度も東北から関西へ大遠征し、一時は北朝の足利尊氏軍を京都にて撃破するなどの功績をあげました。一方、奥州での北朝勢力の圧力が迫る中、1337年国府を多賀城から堅牢な要害の地である霊山に移す事となり、霊山は東北の新たな政治・軍事拠点として機能する事となりました。結果的にはこれが仇となりました。その後、顕家は1338年に北軍の手により敗死(享年21歳)、平安時代より建っていた霊山山上の100以上の建物は北朝の攻撃により、全て焼かれてしまいました。
その後、北畠一族を祀った霊山神社が明治期に建設されるなど、北畠顕家は地元では悲劇の英雄として称えられています。ただ、もし顕家が陸奥の国の都を多賀城から霊山に移すことをしなければ、山上の霊山の豪壮な伽藍群は焼かれる事もなく、あわよくば世界遺産となった中尊寺に匹敵する東北の一大観光地となっていた事かもしれません。何とも歴史とは皮肉なものです。
北畠顕家画像(イケメンです)
県北相馬地域 南朝(赤)/北朝(青)勢力図
3.「とことん霊山」ツアー
10月30日、浜田の企画で「とことん霊山」という霊山歴史探訪ツアーを開催しました(主催はNPO法人りょうぜん里山がっこう)。紅葉が素晴らしい秋の霊山登山を楽しんでいくツアーですが、何も知らないで登ると素通りしがちな霊山の壮大な歴史ロマンも感じて頂くべく、霊山の魅力・見どころを教室で事前に座学したのちに登山を通じて体験して頂くというハイブリッドなツアーでした。
当日はスタッフ含め16名のツアー参加を頂きました。特に今回は東京の4名の学生さんはじめ、多くの若い参加されたのは嬉しい限りでした。謎解き形式で一見何もない原っぱのようなところが実は昔は凄い場所だったと妄想を膨らませるような実験的試みでしたが、参加された皆さんは霊山の魅力を新しい切り口で楽しんで頂いたようで、ツアー企画者としては嬉しい限りでした。今後とも、霊山の様々な魅力をいろんな側面で皆さんにお届けしたいと思います。
登山前の教室での霊山の魅力の講義
霊山山上の霊山寺跡での説明
以上、3回にわたりお届けしました名峰「霊山の魅力」についてのコラムはこれにて終了です。
ご愛読ありがとうございました。
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